2019-07-19

・ペルセ通信 その6 寺﨑礁




「呼吸」というのはオイリュトミーにおいてとても大切な要素だと思う。


1年前にコトバのオイリュトミーで「海の市民」という作品を作った。
ソロでのオイリュトミーを作るときには、あらかじめ一人でおおまかな動き・フォルムを作る。
そして朗唱する人や演奏家と合わせて練習する。
「海の市民」の朗唱はペルセの定方にやってもらった。

初めて一緒に稽古をした日のこと。
俺は作ってきたフォルムで母音や子音を動いてゆくのだが、定方が声を入れてくるタイミングが何ともウマイのだ。
動きの始まりやフォルムの切り替わるところを上手にとらえてくれるので動きやすい。
今日が初回なのに、だ。

テラ「動きやすいわ、よくタイミングがわかるね。」
サダ「呼吸を感じられれば、分かるよ。」

動きの衝動を、呼吸で読んでいるわけだ。
初めて読むテキストだから紙も見る。こちらの動きばかりは見られないだろうに。
いや、見なくても呼吸は感じられるのか?
母音(A E I O U等)の動きは胸の奥から外へ流れるから、俺は動く前に息を吸って体の奥の力を感じ、吐く息で力と動きを外へ出す。子音でも打音(K B D N T等)であればまず浮力を取るので息を吸う。
朗唱の定方は、そういう呼吸を見ているのだ。きっと一緒に同じような呼吸をしているのだろう。
俺が吸うときには共に吸い、吐いて動くのに合わせて声を吐くということを自然としているのだろう。
長年オイリュトミーをやってきた者がする朗唱だし、長い付き合いがあるから感じ取れることなのかもしれないが。

これはオイリュトミーをやっている者にとっては当たり前のことなのか?

いやいや案外、呼吸をするということは簡単なことではないようにも思う。


精神状態が呼吸に現れるという。
確かに緊張したり、慌てたりすると息を吸う力がメインになっている。
落ち込んで気を落としている時には吐く息が優位になっている状態で体もブルーだ。
ならば、逆に、呼吸を整えることによって体や気持ちにアプローチすることも可能なのではないだろうか。
ヨガやアーユルヴェーダでは呼吸法をセラピーにも用いる。
吸う息というのは交感神経にはたらきかけるし、吐く息は副交感神経にはたらきかける。そんな働きを治療に用いる。
これが日常のなかで自然に行われているのがあくびだ。
たっぷり吸って酸素を取り入れ元気を起こし、内側のいらない気を吐き出す。
勝手にあくびをしてくれるカラダってすごい。
出そうなあくびは押し殺したりしないで思い切りやればいい。本当に。

「反感・共感」も呼吸というかたちであらわれる。
嫌いな人がいたり、嫌な場所で、その気を自分の内に入れたくなければ息をあまり吸わなくなるし、自分の内側をそこへ出したくなければ息を吐かなくなる。
体の中と外を直接に結び付けるのも呼吸の力。
ジッと息を詰めていなくてはならないような場所からは早々に退散した方がいい。病気になる。


作品作りをしていて思うのだけど、呼吸って、人に言われてやるのが案外難しいことなのかもしれない。

群舞を作るときには大勢が一つになって力を出す。
ユニゾンの場合は特に動きを合わせる必要がある。
このときに大きく作用するのも呼吸の力だ。
「呼吸を合わせて」という言い方はいろんな場面でよく聞くけど、これがなかなか難しい。
例えばオイリュトミーの動きで、高い音を響かせるときには息を吸う。吸う息と浮力だ。
低い音を響かせるなら深く息を吐く。吐く息と重力だ。
ユニゾンで「決め」の和音を鳴らすなら、タップリ息を吸い、吐きながら和音の力を外へ流す。
このタップリ吸う息をみんなで合わせる。
これが頭では分かっちゃいるけど言われるとできない。
それって、言われるのが嫌だからなんじゃないのかなとも思う。
言われたということに反感が生じてしまうから吸えないというのが半分ないか?。
なんて言われたら尚更気持ちが引いてしまい吸えない。
言い方には気を付けるけど。

吸った気分になるんじゃなくてホントに吸う。
「呼吸を合わせる」というのは「実際に」一緒の呼吸をすることなんだ。

呼吸が浅い人と深い人というのはあると思う。
呼吸の深い人が浅い人に合わせるのは雑作ないが、浅い人は深い人に合わせることはできないそうだ。そりゃそうだろう。
落ち着きがない人や気が上がっている人の近くにいるとホントに息が浅く短いのを感じる。
安定した深い呼吸を身につけたいものだ。

作品を客観的に作ろうという場面でも、呼吸は気持ちに作用を受けてしまうもの。
だから楽しく作品創りをしていたい。
オイリュトミーや作品創りに限らず、生活全般におけるコミュニケーションも呼吸だと思う。
楽しくばかりもできないし、いざというときには難しいものだから、日常の中で呼吸の訓練をしておくのがいいと思う。


ひとつ簡単にできる訓練方法を。

ただ歩くだけ。
呼吸をしながら歩くだけ。
歩数を数えながら歩く。
その歩行に息を合わせる。
8歩吸う。12345678と吸いながら8歩進む。
8歩吐く。12345678と吐きながら8歩進む。
これを続ける。
何回か続けるとけっこう苦しくなってしまうものだ。
そしたら6歩に変える。
123456と吸って進む。
123456と吐いて進む。
これでもしばらく行くと苦しくなってしまうもの。
そしたら4歩に変えてみる。
いくら行っても苦しくならなくなったら6歩に戻す。
しばらく行っても大丈夫になっている。
そしたら8歩に戻す。
まだ苦しくなるようなら6歩、4歩とやり直す。

こんな歩行を繰り返しているだけで自然と安定した呼吸力がついてくる。
また明日やってみると、やっぱり最初は8歩が苦しい。そういうものだけど、6歩4歩と下げ、6歩8歩と上げるやり方を繰り返しているうちに呼吸が深く安定してゆく。
俺はこれをマラソンでやっていた。

ヨガでは下半身を流れる気のことをアパーナという。頭部の力をウダーナという。
現代人はこのアパーナがぐずぐずでウダーナがやたら活躍しているそうだ。アタマデッカチで腰肚が弱い。
アタマはそんなにいらないでしょ。
上がった気を下にさげましょう。
ハードな訓練をする必要はなくてただ歩くことが効果大。
力まずに、一歩一歩、体の力を大地に流して歩く。
その時、かかとの内側・内踝の下で大地を踏むこと。
そして、足の指の関節を全て伸ばしておくということは超大切。
歩数に息を合わせる呼吸法で30分歩くだけ。1日2セット。
続けていれば呼吸の力も下半身の力も安定していくと思う。


オイリュトミーは難しいけど、観念や雰囲気を超えて、ホントに体を使って実現したい。
オイリュトミーはすごい「踊り」だと思うから。


寺﨑礁のペルセ通信。
おしまい。