「ラ・カンパネラ」 桑原敏郎
去年からペルセパッサに参加することになりました桑原敏郎です。
定方さん、新保さん、寺崎さん、原さんたちと同じ天使館シューレの第2期生です。
8月24日の「オイリュトミー現在Vol.6」では、リストのラ・カンパネラを踊ります。
稽古をしている最中に気づいたことや、今感じていることを書いてみたいと思います。
ラ・カンパネラはリストの超絶技巧の作品で、音階が圧倒的に多く、しかも嬰ト短調(G#/A#/H/C#/D#/E/F#)という#記号の多い調です。さらに経過音としてG##/H#/C##/E#/F##などもたくさん出てきます。それをこの曲はかなり速いテンポで上がったり下がったりします。
タイトルのcampanella というのは「鐘」という意味で、確かにたくさんの小さなベルがせわしなく鳴り響いている感じがします。
この曲を聴くと、イタリアかどこかの宮廷でピエロが、小さな鈴をたくさん道化服につけて、戯れに滑稽なダンスを踊っている姿が浮かんできます。
この曲を「見える音楽」としてやる場合、見所はやはりその音の過剰さになるかと思います。しかもピエロのイメージがあるので、取りきれない音を必死でとろうとして道化のようにあたふたしている、という感じです。
そんな演出を漠然と考えていたのですが、いざ音階を覚え始めたときの感覚は、100個近い電話番号をランダムに覚えていかなければならない。そんな気分でした。しかもオイリュトミーでは、#の音階は腕を返して肘から先を曲げてとるので、頭で音列を覚えても実際に腕で音階をとれるようになるには時間がかかります。
ところが不思議なもので、長い曲を短い部分に分け、繰り返して何回もやっているうちに、「あ、できた!」という瞬間が来ます。「こんなにたくさんの音階をこの速さでできるはずがない」などと思っていたものができるようになる。この瞬間が無上の喜びです。その喜びが次の部分を克服する活力となって、その次の部分もやがて「あ、できた!」となる。
これを繰り返していくと曲の流れをある程度辿れるようになって、最初は間違えてストップするところが多いのですが、やがてその間違いやすいところも少しずつ克服されていきます。そして音階の方はこの間やっと全曲を覚えることができました。
ところで、今回のような音楽オイリュトミーの作品をやるときは、こうしてまずフォルムや音階を覚えたあと、その動きを何度も反復して練習します。この段階では記憶する力がフル回転で働いています。
ちなみに西川隆範『シュタイナー用語辞典』を見てみると、「記憶はエーテル体を道具とし、エーテル体は記憶の担い手である」とあります。また「子供の成長力が記憶力に変化する」ともあります。(エーテル体を生命体と呼ぶことがありますが、その方がイメージしやすいかもしれません。)
練習をしているときには、フォルムや音階の動きを反復することで記憶力をフルに働かせているうちに、このエーテル体が活性化されてくるのではないかと思います。そして子供を成長させるときに働くような生命のエネルギーが目覚めてくる。
似た感じでいうと、ベートーヴェンのピアノ曲やシンフォニーの高揚感に溢れた盛り上がりの部分を聞いて、「わあ、すごい」と幸福感に浸っているような感じでしょうか。そういう力強い音の響きが体の奥底から轟いてくる感じがします。まあそれが理想ということですが…。
ラ・カンパネラのような音数の多いむずかしい曲をやるときは、最初はなかなかうまくいかなくて、「これだけの音階を覚えることに何か意味があるのか」とか、いろいろネガティブなことを考えてしまいます。ですから、私の場合、練習を始めるまでがひと苦労で、重い腰を上げるまでは逃避の連続です。
ところがいったん練習を始めて繰り返し同じことを練習しているうちにだんだん夢中になっていきます。やがて自分の中の記憶力がフル回転してくると、知らないうちに興奮状態になってきます。そして気がつくと勢いよく音階をとっていたり、フォルムを動いたりしていて、「始める前は結構疲れていたのに」などと思うことがあります。少し生命力が湧いてきたような感じです。
記憶力を総動員してとにかく繰り返し動作を反復する。オイリュトミーはうまくできているなと思いました。これこそ生命力を起動する確実な方法だからです。
しかし音階とフォルムを覚えたと言っても、まだこれからそれを一つの音楽的な流れとしてまとめていかなければなりません。さらにそれを「踊り」として見てもらえるようなものにしなければなりません。その作業がすべて終わったとしても、全曲を間違えずに通せる確率を上げて100%まで持っていかなければなりません。
考えていたら気が遠くなってきました。
8月の本番に間に合うことを祈るばかりです。
これから少しずつでも克服していけたらと思います。まだ先は長そうです。
~ 次回のペルセ通信は7月。原仁美が担当します。